深海魚の漁 -漁師紹介-

深海魚の漁 -トロール漁-

トロール漁(底引き網漁)とは

トロール漁とは、片側1400m~1600m、両側あわせて3000m以上の長さのロープの先に袋状の網をつけ、深い海の底を引くようにして魚やカニ、エビなどを漁獲する漁法です。

戸田のトロール漁では、おおよそ14tの船を使用していますが、ロープの長さや重りの重量などは、それぞれの漁師さんごとの狙いや工夫によって異なります。

一回の漁にかかる時間は1時間以上。5分以上かけて海底まで網を沈めたら、約40分ほど船でロープと網を引き、獲物を漁獲します。その後ウィンチを使ってロープを巻き上げますが、1600mのロープを巻き取るのに20分ほどかかるなど、手間と時間がかかる漁です。また、資源保護の関係により、網入れは1日5回とされており、5月中旬から9月初旬は禁漁時期となっています。

漁場は、シーズン当初は陸から1時間程度の近場が主体となり、シーズンが進むごとに遠方の漁場へと舞台を移していきます。

水深150m前後では主にメヒカリなどの魚、水深200m~250m近辺ではエビなど、水深300mほどではカサゴが漁獲できますが、想像以上に凹凸のある海底の一定の深さをトロールするためには、戸田の海底の状態を熟知していることが必要不可欠となります。万一、網が海底に引っかかると船が動かなることもあり、こうなるとロープを切るより他なく、入った獲物ごと網を捨てることになってしまいます。

トロール漁は、漁師さんの長年の経験に加えて、つねに細心の注意が必要となる繊細な漁なのです。

■トロール網

トロール網は三角形の形をした袋網で、網自体の全長は25メートルほどになる。この網は上部2本、下部2本のロープの先につなげられ、この一式を狙った水深まで沈めた後、船で曳くことで、底生の魚介類を漁獲する。また袋状の網にはファスナーが取り付けられており、船上に網を巻き上げた後は、これを開けて網内部の漁獲物を取り出す。

■浮き(アバ)

トロール網はつねに水中で口を大きく広げていることが重要となる。そのために網口(あみくち)を上に広げる役目を果たすのが「浮き(アバ)」と呼ばれるプラスティック製のブイ。網の上部に連なるロープ(ヘッドロープ)に連ねられた浮き(アバ)が、その浮力で網の上部を持ち上げる。

■沈子(オモリ)

一方で網の下部をできるだけ沈めるため、トロール網の下部につながっているグランドロープ(底に近いロープ)には、沈子と呼ばれるオモリが付けられる。鉄球やチェーンを連ねたものの他、中央をロープが通るようチューブ型の形状をした鉛のオモリなどが主に使用される。 戸田のトロール船では狙う魚種や水深、漁場の状態、船長の工夫などによって、130kgから260kgほどの重さとなるよう調整されていることが多い。

漁師紹介

日本一深い駿河湾に挑む
選ばれし戸田の漁師

※写真はイメージです

清進丸 五十嵐春久さん

網元の宿「清進丸」のご主人。一般的な漁師さんの豪快なイメージとは異なり、とても優しそうな印象を持つ清進丸船長の五十嵐さん。みんなでまとまって何か深海魚のことができないかな、とご自身の思いを淡々と語るジェントルマン。

底引き網漁との出逢いは、五十嵐さんが子どもの頃。父親がその頃にはじめた底引き網漁を引き継ぎ、かつては日大で水産を研究していた縁で清進丸に乗り組んでいた船員がいたが、現在は清進丸を1人で切り回している。

戸田の深海魚への取り組みはまだまだ足りないとかねがねから感じていたそうで、地域・漁師・行政までが一体となって「みんなで盛り上げていきたい!」と熱く語ってくれた。

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日の出丸 山田勝美さん

父親の家業だった底引き網漁を受け継ぎ、3代目として日の出丸を率いている船長・山田勝美さんは、80歳を超えるが、語り口にも作業にもまったく年齢を感じさせることのないバリバリの現役漁師さん。2人のシニア漁師と静岡から移り住んだ若手の漁師さん計3名を率いて、今日もいつものように日の出丸で大海原に乗り出す大ベテランのプロ漁師だ。

海の上では現役船長として活躍しながら、陸上では山竹商店のご主人としてのもうひとつの顔も持っている。
戸田の漁船の中で、日の出丸は遠方まで漁に出て行くのが得意で、駿河湾の最深部近くまで船を繰り出すことも多いのだそう。

若手漁師の大村さんは、何度かメディアへ登場し、沼津港深海水族館をはじめ、様々な水族館や大学などの研究機関にも協力している。

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水八丸 水口敬三さん

親子で底引き漁に出る水八丸船長。父親から船を受け継ぎ、漁師一筋の3代目。
網に取り付けられたロープの材質や錘の重さなど、漁業許可範囲の中での様々な工夫に余念がない研究肌でもある。同船する同船する4代目の息子さんはその父の背を見ながら、プロとしての技を研鑽中。

戸田の深海漁のPRについても、様々な提案を照れながらしてくれた。

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清正丸 山田良一さん

「父親の希望で継いだのがこの深海漁。ホンネではやりたくなかったんだけど。」と漁師らしい語り口で笑うのは清正丸船長の山田さん。水産学校を出た同級生たちが大手水産会社に就職していくのを横目に、底引き漁を続けてきたそう。しかし当時の大手企業が激しい競合の中で次々と淘汰されていくのを見て、父親の意志を継いで今まで船を存続させてきたことが最大の親孝行だったと語る。「昔からずっとワガママにやってきた」と振り返りながらも、家族への温かな思いを見せてくれた。漁師として長く船を存続させることに意義を感じるという言葉通り、水揚げと稼ぎにはこだわりを見せるプロ中のプロでもある。

清正丸の乗組員は現在3名。ベテラン漁師が主力となっている戸田にあって、清正丸では23歳の若手の乗り子を加えるなど、若手育成への想いも熱い親分肌の船長さんだ。

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福徳丸 高田清さん

タバコをふかしながら、軽妙な語り口で様々なことを教えてくれた。福徳丸船長の高田さん。乗組員2名を率いての漁の傍ら、戸田漁協の理事として戸田の深海魚漁全体の運営にも心心を配りながら造船所の経営を行う多忙な日々。

先代は40年ほど前まで造船所と貨物船を営んでいたが、オイルショックの影響と底引き漁の権利の空きのタイミングから底引き網漁を開始。当初の乗組員は、造船所の溶接工や大工さんだったという。

シーズン開幕時は近場を主体とした漁をメインとし、季節が過ぎるごとに徐々に遠方の漁場へと主戦場を移しながら、エビやカサゴ、メギスなどを漁獲しているという。
世界的に珍しい魚種の漁獲経験もあり、新種登録されたオシロザメの捕獲者としても知られている。

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滋愛丸 佐藤滋記さん

巻き網漁師を20年務めたあと底引き網漁に転身してからも25年。おだやかな表情の中に確かな自信と誇りを漂わせるベテランの船長さん。長い漁師経験の中では、稀少生物のラブカや、1t超えの大物エイの漁獲など、数々の貴重な経験も積んでいるという。近海を主な漁場とする滋愛丸の船長として乗組員2名を率い、アカザエビやユメカサゴ、メギスやデンデンなどを主に漁獲する一方、陸に上がっては(有)滋愛丸産業の社長として民宿「滋愛荘」を経営する事業家でもある。

戸田の深海魚漁を見つめ続けたその視点から、戸田の深海漁の今とこれからについても熱い想いを抱いていて、地元活性化への協力は厭わないと語る。
5年ほど前からは息子さんも滋愛丸に乗り組み、親子で戸田の深海漁を支えている。

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海光丸 山田 浩二さん

海光丸船長として3人の乗組員を率いる山田さんは、戸田の深海魚漁師としては最年少の親方さん。船長だった父親の意向を受けて、家業の「お食事処 かにや」を兄が、漁船を山田さんが19歳で受け継ぎ、現在まで30年以上のキャリアを積んでいる。

「ここ数年、海の環境が以前とは変わってきて、今までの経験や狙いが通用しないことがある」と、つねに海の状況に細心の注意を配る。

観光漁業の取組みにも前向きで、戸田の漁を活性化するためにも、これまでの前例にこだわらず新しい取り組みや戸田ならではの技術の確立と保護が必要だと話すなど、「これから」の戸田を盛り上げるための熱意と、柔軟な視点をともに持った船長さんである。